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マイトガイ「S」の自動車特選街: 第4面●自動車社会・話題アーカイブ

第4面●自動車社会・話題の最近のブログ記事

〜付け焼き刃の政府施策は長続きしない〜

●輝かしい20世紀後半を築き上げ、一貫して日本の経済拡大を続けていくための源泉となった我が国の工業技術。その核となる先端領域は今も国内に温存されている。
対して、その技術を製品化するためノウハウを貯め込んでいかなければならない良質な労働力は、21世紀となった今日、製造工場の海外拡散が急速に進んだことから、もはや日本だけのお家芸と言えなくなってきている。

●またこの間、モノ造りの一端を担ってきた自動車産業は、バブル期以降の社会環境に迎合できないまま、まるで古生代の恐竜のような衰退期を迎えつつある。
一方で政治は、二大政党制を巡る陣取りゲームに終始。しばらく自動車業界の衰退を他人事のように眺めていたが、政府また行政としてようやく、昨年秋の国際金融危機を契機に「エコカー減税」「購入助成」「スクラップインセンティブ」といった緊急措置を打ち出し、マスコミも経済界も日夜、これに需要回復の期待を込めている。

〜生活者は「消費者」という名では括れない〜

●けれども、そもそも「クルマを保有することへの魅力」をここまで失墜させたのは、その日本政府自らが行ってきた諸制度の結果であり、かつ、マスコミや経済界がこの国に地に足をつけて暮らす生活者を勝手に「消費者」という名前に呼び変え、ひたすら購買行動をあおった直近の20年間に筆者は大きな元凶があるように思えてならない。

●今更、「若者のクルマ離れ」を自動車マーケットの低迷原因にあげつらう自動車メーカーの経営者や評論家も悲しいかな未だ多い。
しかし例えば出版業界において、自動車を題材にする書籍や雑誌媒体の低迷は今に始まったことではなく、2000年頃から顕在化してきていた。
自動車メーカー各社の広報部門も充分承知しており、自社製品の広告出向先を自動車専門誌から、対象外のファッション誌や情報誌にシフトしていたから、それは明白である。

〜離れてしまった自動車メーカーとユーザーの意識〜

●つまり「市場変化の速さ」や「若者の車離れ」といった要素はバブル崩壊後、早くもその予兆が見え隠れしていたのである。
それにも関わらず、1990年代後半から日本の自動車メーカー各社はプレミアムカーを介して車両価格一台あたりの利益拡大に奔走し、市場の変化に気付かないふりをし、足元の原因分析を積極的に行わず、目の前ぶら下がっていたはずの課題に永らくフタをしてきた。
結局それは、本来はとうの昔に取り組まねばならなかった宿題を未解決のまま放置してきた訳で、金融業界や食品業界において、日本国内で発生した問題の元凶とそれほど大差がない。

●自動車メーカートップが、これに対して思い当たる向きは多いはず。というより日本の経営者たちが愚かではないことを信じて、そうであって欲しいと願っている。
実のところすでに21世紀を迎える前の段階で、自動車業界はこれまでの商慣習も含め、社会への関わり方や考え方を大きく変えなければならなかったし、日本で暮らす生活者の意識は、それらに先駆けて自動車メーカー各社の思惑とは違う方向に舵を切り始めていた。

〜我々が持つ自動車の概念を見直すべき〜

●そうした現実は、過去の数字を見ても明らかだ。
昨年2008年度の新車販売台数は遂に480万台と500万台の大台を大きく割り込んだ。
もはやこの数字が500万を超えることがないことは自動車メーカー各社も充分承知していることと思う。 というのはこの流れは2008年から始まった訳ではないからである。
国内の自動車マーケットにおける登録車台数の現象は2000年を迎えて以降、右肩上がりの登録台数をしばしば割り込むという断続的なサインが発生していたのであるから。

●2000年以降、ゆるかやな市場低迷が進行していたことから、もはや国内市場の衰退は、短期かつ即効的な「エコカー減税」や「購入補助」「スクラップインセンティブ」などという付け焼き刃の政府施策ではどうにもならない。
昭和から平成に至る間に日本人が、人間社会が、育んできた自動車パッケージの概念自体が、もはや終わっているのだ。
特に都市部や長距離移動において、他の公共交通機関と激しく競合するゆえに、一般的な乗用車一台あたり乗車定員が5人乗りや4人乗りでなければならない理由はどこにもないし、現在の車両寸法の規定が、この先の世の中でも永続的にまかり通るとは思えない。

〜大切なのはクルマ造りの思想を見極めていくこと〜

●クルマを持つことに対する魅力とは、「いつでも好きなときに好きなところへ行けること」。それが自動車と呼ばれる乗り物の核心であり醍醐味であるはず。
それについて「保有する・しない」の概念はまったく関係ないし、生活を便利にするたるの単なる移動ツールでしかない乗り物の存在自体が「乗る人の付加価値を押し上げる」という概念も前時代的な考えである。

●それに薄々気付いたトヨタは、極端な低コスト思想を背景に、比較的安上がりな投資環境でも自動車造りをおこなえるようIQを造ったと筆者は考えている。
同車は腰下や操舵などの構造から見てカー・オブ・ザ・イヤーカーで「全長3m弱というミニマムなボディに、4人乗りを可能としたパッケージング&デザイン。さらに9エアバッグを装備し、高い安全性と環境への配慮もバランスよく実現した"革新的"なFF車である 」という受賞理由。またトヨタ自身が言う「トヨタクオリティを凝縮した」という切り口より、安普請という意味ではないが、インドのTata Groupが造るnanoの思想に近い乗り物であろう。

●同じような実車の話題でもうひとつ。先のエコカー減税の先頭に立ち、昨今マスコミ報道で何度も取り上げられているホンダのインサイト
インサイトはプリウスとよく比較されているようだが、この両車は「ハイブリット形態の動力源を持つ」という共通要素はあるものの、あくまでもガソリンエンジンの補助としてモーターを付けたインサイトと、トヨタのそれとは車両開発の思想がまったく異なる。
本来、両車を車両購入の天秤に掛けることそのものが本当はナンセンスなほど、車両の設計思想は違う。

〜時代に合わなくなった政府制度と施策〜

●上記のように、今は車両開発の出発点となる思想を新たにしたクルマが日本国内の市場には沢山あるのだが、最終的にマーケットに送り出される個々の完成車両そのものは、既存の自動車のかたちやサイズなどの枠内にとどまってしまっている。
その理由は、単に政府の既存税制等の規制枠に縛られているからに過ぎない。

●例えば今は一般に自家用車と俗称される分野で、「普通車」と「軽自動車」という呼び方が存在しているが、もはやこうしたジャンル分けでは、今の時代の生きる生活者に訴求できる乗り物は絶対にできないし、若年層に迎え入れられる新しいクルマも今の自動車の延長線上では決して誕生しない。自動車を巡る諸制度、諸施策はもう時代に合っていないのだ。

●ゆえに日本政府は、急場しのぎの施策を数多く打ち出すよりもこの新しい時代に向き合って、どういった乗り物を国民が求められているのかを根本的に問うべきだ。
またそこには自国に技術基盤を持つ自動車産業にしていくという哲学も併せて持って欲しい。

●ちなみにこれは国々の垣根を乗り越える「グローバル環境を否定せよ」、「鎖国せよ」、ということでない。しかし世の中が一層グローバル化するなか、新たな観点として「グローカル」という言葉が語られる昨今である。国内に独自の基盤を持たないマーケットや産業はいずれ衰退する。それは火を見るより明らかなことである。

〜低迷する韓国の軽自動車マーケット〜

●隣国の、韓国自動車工業協会(KAMA)によると、当地では現代自動車のミドルグレード車であるソナタが、2007年の最多販売台数(10万5247台)を達成。さらに2位アバンテ、3位がグレンジャーと、世界規模で原油価格が高騰しているのにも関わらず、韓国内では依然、押し出し感の強い中・大型モデルに人気が集中している。同国の小型車枠で唯一気を吐いたのは中小企業の活力に支えられ、約7万台を売り上げた現代・ポーターだけである。

●そうしたなか今年から韓国内では、車幅が1.5メートルから1.6メートルに、排気量で800ccから1000ccへと、同国内における軽自動車規格が拡大される。これを受けて起亜自動車は、AT装備車で1リットル当たり16.6キロという好燃費と100万円に満たない手頃な車両価格を武器にした1000cc車モーニングを投入。これによって、それまで韓国軽自動車市場ただ一台の軽自動車として、ひとり舞台を演じ続けてきたGM大宇のマティズとの戦いの火蓋が切って落とされることになった。

〜韓国で自動車は乗るヒトを体現する鏡〜

●実はこれまで、韓国では軽自動車の販売は永らく低迷してきた。これは日本海の対面で、軽自動車の販売数だけが今日も伸び続けている日本国内とはまったく異なる展開である。もちろん韓国においても、日本と同じように軽自動車は、税制面や道路通行料の割引など車両維持に掛かる費用面でのメリットはシッカリと存在している。

●しかし韓国では「自動車を持つこと」に対してステイタス性を大変重く見ているところが、日本とは大きく違う。加えて「大柄なクルマの方が衝突時には安全だろう」とするステレオタイプの考え方も相まって、現代・起亜・GM大宇・双龍ルノー三星と数多ある自動車メーカーのなかでも軽自動車市場に進出する企業はホンのひとにぎりである。近年の韓国内で、マティズの競合と目されていたクルマは、現代のアトス、起亜ビスタ位であり、またそれらのライバル車達は、既に販売停止の憂き目を被り、韓国内の自動車マーケットからはとうに消え去っている。

〜日本の軽自動車が韓国市場へ参入する機運も〜

●つまり韓国では、「大きなクルマこそ成功の証と見なす」という国民意識が、エコな軽自動車市場発展の大きな障壁となっているのである。そこでこの2007年末、韓国政府の大統領職引継ぎ委員会は、年間243万バレルの原油節減効果を狙って、これまでは「小型車へのLPG搭載は危険である」と拒否し続けていた軽自動車とハイブリッドカーに対するLPGの使用を、2015年までの8年間に限定して認める意志を固めた。

●加えて日本からは韓国の軽自動車市場開拓を目指し、日本メーカー進出の機運が高まりつつある。その第一波は、GM大宇が仕掛ける三菱「i」の販売である。気になる車両価格は100万円を大きく超える見込みで、韓国市場の経済環境からは若干値が張る。しかし急騰している原油価格や、都心で悪化する交通事情を勘案すれば、軽自動車の販売比重が高まる可能性はまだまだ充分にあるだろうし、また韓国の聡明な消費者達はきっと正しい選択をするだろう。

〜韓国は世界の自動車社会に大きな影響を与える存在に〜

●翻ってみると韓国の自動車産業は、1960年代末から80年代後半にモータリゼーションのピークを迎え、1970年代にわずか7万台余りだった車両登録台数は、30年目の節目を迎えた2000年には336万台となっている。そして2007年。商用車も含めた自動車生産台数で、現代自動車は1社単独で453万台と3年連続で世界6位の自動車生産台数を記録するに至っている。

●それが意味するのは、もはや韓国が自動車の世界において一介の挑戦者では無いということだ。韓国はアジアの自動車社会という枠を超え、世界経済に大きな影響を与えるほどの自動車生産大国なのである。しかしそんな自動車生産と販売を支えているエネルギーは、目下のところ間違いなく化石燃料の石油であり、その生産量自体は2005年末の8,600万バレルをピークに、今この時も減少の一途を辿っている。近年の技術革新で、原油採掘と並行して石油抽出元の大地からは、新たに天然ガスも採掘されている。とは云え、いずれは発展途上国も含めた世界の石油需要に追いつかなくなる日は近い。

〜ひたすら消費することだけが幸福を生む鍵なのか?〜

●他方では石油をエタノール燃料に替えていくことで、「さらに自動車社会を維持・発展させていくことも可能」とする見識もあるようだが、本来人間のための食料であるはずの穀物を自動車燃料と競い合わせること自体、数多くの課題が山積しているのではないか?またそもそも石油から造られない新エネルギーのエタノールであっても、排出される二酸化炭素量はまったく変わらず、かつ現時点での燃料効率はエタノールの方が劣るのである。

●加えてサプライムショック覚めやらぬ金融市場から、膨大な投機資金が原油市場に流れ込んでいることを踏まえると、現時点で世界を支える米国経済が果たしていつまで安泰なのか予断を許さない。そうした環境下で950,000百万ドル余ものドル建て外貨を抱えている日本も心しなければならないことだが、韓国でも自動車生産・販売体制を「米国依存体質」から「内需確保型」の経済スタイルに仕立て直しておくことは必定となるだろう。

〜人の欲望は無限だが、地球の資源には限りがある〜

●21世紀を迎えた現代人にとっての人生の成功とは、「資源を浪費することで得られる幸せ」を求めて、沢山のモノを買い込み、大きなクルマに乗ることではないのだろう。自動車社会や人間社会を今後もより発展させていくために、我々は今日何をするべきなのか。一人ひとりが考えて・行動する、そんな時期に来ているのだ。

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