●ホンダが本年限りでNSXの生産打ち切りを決定する一方で、フォードとのコラボで自動車メーカーとしての体力を取り戻したマツダは、来る8月25日から新型ロードスターを発売する。実際にはすでにWebサイト上で予約受付中とのことで、その反響は上々という。
●またNSXに関しては、ホンダが自ら既存のNSXオーナーにリサーチを取るなど、次期モデルの開発を迷い続けていた節があるが、こちらも一旦生産中止となるものの次世代スポーツカーは鋭意開発を続けていくとしている。
●そうした超エキゾチックスポーツカーのNSXとは、比較対象にはならない手軽さがウリ。それがライトウエイトスポーツのロードスターだ。まさにそのシンプルコンセプトで世界の自動車シーンに革命を巻き起こしたクルマでもある。
●そのストイックなまでの割り切りが立派で眩しかったマツダ製の2座席スポーツは、この3度目のフルモデルチャンジで、どうも少々立派になりすぎてしまったように思う。昨今は時代の流れなのか、来る秋に発売されるシビックもそうなのだが、どのクルマも妙に大型化していく傾向が目立つ。まぁそれもコスト圧縮という至上命令のなか構成コンポーネンツの流用が欠かせない御時世ゆえ、やはり時代の流れということなのだろう。
●さてそうしたスポーツカーばかりではなく、高級車やリッターカーなど車種を問わずに、仮にとある対象メーカーのラインナップ上には存在しないようなクルマを1車種だけ新規開発すると一体幾ら掛かるだろう。正直いって今やそんなゼータクは望むべくもないご時世ではあるが、その場合の予算はおよそ1000億円は必要ではないかといわれている。
●ちなみにこの1000億円のうち、昨今の車両開発で最も資金を浪費するのはボディ骨格の開発だ。この部分ををまったく新しく造るということであれば、簡単な仕様変更でもすぐさま100億円単位で予算が吹き飛んでいくことを覚悟しなければならない。
●さらに新車をそれらしく仕立てていくためには、クルマの心臓部であるエンジン開発(最近はマストな要件ではなくなりつつある)や、サスペンション設計、内装部材の調達など、諸々で3万点以上におよぶ構成パーツが必要だ。つまりたとえ1000億円の資金を調達できたとしてもその資金繰りは決して安泰ではないのだ。それゆえ自動車メーカー各社では、新車開発の費用の抑え込みにありとあらゆる手を尽くすこととなる。
●そんな中でも近頃、最も使い回しの対象になり易いのはエンジンやサスペンションなどの構成パーツである。実のところちよっと前なら、スポーツカーや高級車に搭載するエンジンユニットは、そのクルマの大きなセールスポイントだったはず。しかし今や例えプレミアムカーであったとしても、専用エンジンを新規開発するケースがあまり見られなくなっている。逆にエンジンユニットは基本構造をできる限り維持して多くの車両に使い回す。さらに同一のエンジンブロックをベースに、永らく改良を重ねながら使い続けることすらごく普通のことである。
●そういえば前に、ホシノインパルの星野一義さんに伝統のL型エンジンのことを聞いたことがあるが、その回答はけんもほろろ「そんなもん最新ユニットがイイに決まってる」と一蹴されてしまったことがある。より高性能なものを求めて時代の最先端を走るエンジニアやレーザーにとって、旧エンジンを改良して使い続けるというのは相当辛いことらしい。世の中には「古い革袋に新しい酒」などという言葉もあるようだが、確かに予算さえ許すなら、新車開発とて新しいエンジンユニットを搭載するの方が愉しいに決まっている。
●さらにコスト削減策を突き詰めていくとその究極策はプラットフォームこと車台の共有化に行き着く。実際、車台の共有化は自動車メーカー各社で徹底的に検討・実行されている領域である。このため相当幅広い車種ラインナップを誇るビッグメーカーでも、車台は数種類だけというケースも少なくない。こうして浮いた費用でどれだけ多品種少量生産体制を活かしていくのか。
●それこそ生き馬の目を抜く現代社会で、自動車メーカーが利益を確保していくための高等テクニックだ。もはや車台は、開発当初から幅広く使い回し先を考え、設計されるのが普通になった。場合によっては自社グループの枠を超え、他の競合メーカーと共有される。そんなケースもでてきている。
●それでも新車開発が恐ろしく賭博性が高い事実は拭いがたい。想えば筆者が子供の頃には、街の駄菓子屋に「箱を破いてみないと中味が判らない」類の菓子があったが、自動車開発は極端なハナシそんな傾向が強い。
●そんななかで生産ライン上、屋根の低いクルマしか生産できなかった当時のホンダが、苦肉の策でリリースした初代オデッセイが突如大ブレイクしたりする。そういう意味で自動車メーカーの方々というのは、総じて山師的な部分があるかも知れない。それが巨大資本を持つ企業の優劣を決する訳で、そういう見方をすると新車登場の背景をウオッチするのはなかなか愉しいことなのである。
コメントする